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【グッドデザイン賞受賞特別企画】 審査委員の飯石藍さんにきく、自分のほしい暮らしは自分でつくるということ。

「いきつけいなか」が、2023年度のユニット18「地域の取り組み・活動」部門にてグッドデザイン賞を受賞しました。それを記念した特別インタビュー企画「グッドデザイン賞の審査員にきく」。
今回お話しを伺ったのは、2021年から3年連続でグッドデザイン賞「地域の取り組み・活動」部門の審査委員を務めていた飯石藍さん。

「公共空間をもっと楽しく」をコンセプトに、市民や民間企業を巻き込みながら、新たな公共空間の在り方を模索されています。公共空間に着目したきっかけや、飯石さんのグッドデザイン賞の審査の考え方について、お話しをうかがいました。

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飯石藍(いいし あい)
公共R不動産メディア事業部マネージャー/株式会社nest取締役。
公共空間にまつわる実践型メディア「公共R不動産」にて、公共空間活用のリサーチ&情報発信、発注のプロセスデザイン、「公共空間逆プロポーザル」など、公共空間のクリエイティブな活用に向けた様々な事業を企画推進。また、豊島区の南池袋公園・グリーン大通りを中心とした社会実装プログラム「IKEBUKURO LIVING LOOP」にて、社会実験をハード整備や都市政策につなげ、公共性・寛容性あふれるパブリックスペースを生み出すべく地元企業と協業して推進中。
2021年から3年連続でグッドデザイン賞「地域の取り組み・活動」部門にて審査員を務めている。

みんなのためのはずが、
誰のためにもなっていない公園。
公共空間の在り方への違和感。

———飯石さんは「パブリックをアップデートするメディア」をコンセプトに掲げる「公共R不動産」の運営や、実際に道路や公園という公共空間をフィールドに使い方の実験をしていくプログラム「IKEBUKURO LIVING LOOP」の企画推進など、公共空間に関わる取り組みを数多くされています。公共空間に興味を持つようになったきっかけは何ですか?

飯石さん:これと言った大きなきっかけがあったわけではないんです。大学でジャーナリズムを専攻していたので、日々世の中で起こっている出来事や社会問題について、考えることが多かったんです。その中で、社会には見えない不利益を被っている人、得られるべき権利が得られてない人がいることに、違和感を覚え始めました。

———どんなふうに違和感を感じるようになったんでしょうか?

飯石さん:例えば公園は街の人のためのものなのに、禁止事項が多いなって思ったんですよね。近所迷惑だから、大きな音を出してはだめ。危険だから、ボールで遊んではだめ。子どもが怪我をしたから、遊具は撤去する。

誰か一人のクレーマーが声をあげたことで、それが多数派の多数意見かのようにルールが決まっていく。その結果、子どもも大人も来ない、誰のためでもない場所になってしまう。そんな事例がニュースでも、よく流れていました。そういう違和感の積み重ねから、次第に日本の公共空間のあり方に疑問をもつようになったんです。

さらに「日本の公共空間を変えたい」と強く思うようになったきっかけは、「公共R不動産」を立ち上げた翌年の2016年に、海外旅行をしたことですね。デンマークのコペンハーゲン、オランダのアムステルダムなど、ヨーロッパを中心に回っている中で、日本の公共空間との違いにとても驚きました。

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飯石さん:公園の遊具で遊ぶ子ども、ベンチに座って楽器を演奏する人、公の場に設置されたボクシングリングでボクシングをしている人。個々が“そこにいること”が許されていて、どんな振る舞いをしても咎めることもなく、思い思いに過ごす。そんな光景が広がっていました。日本の公共空間と違って「本当の意味で、市民に開かれている場所だ」と感じたんです。

それから「日本の公共空間を、本当の意味で人に開かれた空間へ変えたい」という想いが強くなりました。


公と民のバランスがどう拮抗しているのか。
今の時代の公共の在り方。

———飯石さんが考える、本当の意味で人に開かれ活用される公共空間をつくるために必要なことは何ですか?

飯石さん:まずは新しい公共の在り方を、みんなでつくっていくことが必要だと思っています。

昔は、行政と民間の境界線って曖昧でした。しかし今は、細かく権利や責任範囲が明確にされており、ここからここまでが行政、ここからここまでは民間と線引きされている。だから、責任範囲外のことには、お互いに関わらないのが当たり前になっています。

これから少子高齢化が進み、支援を必要とする人が増えていく一方で、それを支える人口は減っていく。さらに地域に昔から住んでいる土着的な人が減り、人との関わりが気薄になっていくことで、従来の自治体が機能しなくなってきています。

そんな時代に公共的なことを全て行政に丸投げしていては、必ず手が回らなくなり、必要な人が公共サービスを十分に受けられなくなると予想されます。そうなる前に、公共的なことは行政がするべきことだと線引きをせず、もっと住民や民間が関わっていいと思うんです。

だからと言って、昔のようにただ行政と民間の境界線を無くせばいい、というわけではありません。「自分たちのほしい暮らしは、自分たちでつくる」という視点をもって、私たち一人ひとりが新しい公共の在り方をつくっていくことが必要なんです。

公共空間においても、行政と民間、そしてそこで暮らす住民が、共につくっていくことができれば、自然と本当の意味で人に開かれた場所になっていくと思います。

———だから飯石さんが携わられている、「公共R不動産」のメディアは公共空間と市民や民間企業が交わる様々なイベントを行っているのですね。

飯石さん:そうですね。公共R不動産は、使われていなかったり、活用を検討している公共空間の情報を発信するだけでなく、公共空間の活用のあり方を考えるきっかけを作ることを意識しています。

例えば「公共空間逆プロポーザル」は、公共R不動産が企画運営をしたイベントのひとつです。公共空間の活用を進めるときは、行政が募集の要件を決めて、事業者募集をするという流れが一般的。しかし、公共空間逆プロポーザルは、民間事業者が行政に向けて「公共空間を使ってこんなことをしたい!」と提案。それに対して、行政が「うちの公共空間を使って!」と手を上げ、マッチングの機会を創出するというイベントです。

このように「公共R不動産」は、市民や民間企業が主体的にわくわくしながら公共空間へ関わることができるきっかけを、つくっています。

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———まさに「公共空間をもっと楽しく」する仕組みですね。ご自身がプレイヤーとなり様々な活動をされながら、2021年からは3年連続でグッドデザイン賞「地域の取り組み・活動」部門の審査員も務められています。審査員を務めるにあたってはどのような意識、どのような視点を持って臨まれましたか?

飯石さん:グッドデザイン賞の審査では、まずは「それが良いデザインかどうか」「社会にどんなアウトカムを生み出すか」という視点で審査に向き合っていきます。その上で、私が審査に関わった「地域の取り組み・活動」部門は、モノだけではなくコト(取り組み)に関するものが多いので、審査の視点が揺れてしまう可能性がありました。

そのため、数年前から、「地域の取り組み・活動」部門では追加での視点を設定しています。2023年は、「1.本質的な社会課題に着目できているか」「2.内容や仕組みにオリジナリティがあるか」「3.表現や成果物が美しいか」「4.継続性があり、実績があるか」「5.社会全体が良いデザインだと思える共感力があるか」という5つの項目を設定し、審査に臨んでいました。

この5つの基準とは別に、私個人としては「公と民のバランスがどう拮抗しているのか」という基準で作品に向き合っていました。これは持続可能な仕組みかどうかに、大きく関わってくる重要な視点です。

地域課題、社会課題に取り組む事業は、サービスを受ける人からはお金を取れないことも多いです。そのため民間だけで取り組むのは難しく、国や自治体からの補助金で運営を行っている事業が多くあります。

すると行政は補助金を出しているからと民間に業務を丸投げしていたり、逆に民間は補助金だけを頼りにし自立していなかったりするパターンもあります。しかし、その状況では持続可能な取り組みだとは言い難いのが実情です。

だから、公と民のバランスがどう拮抗しており、どうやって持続可能な仕組みを作っているのかは、かなり重要だと思っています。


どこにも搾取されず
地域が自立できる仕組みを。

———公と民のバランスへの着目は、公共空間を専門とする飯石さんならではですね。他にもそういったご独自の審査基準、大切にしている視点はありますか?

飯石さん:独自の視点かと言われるとわからないですが、「地域内の経済・資源の循環につながっているか」という視点も重要だと思っています。

地域で新たな事業や取り組みを始めるのは簡単なことではないし、短期的収益だけを見ていては実現が難しい。地域に参入するならば、時間をかけて取り組む意志があるか、地域とそこで暮らす人にとって、本質的に必要なことは何かを本気で考えているか。そして、それを実現するという覚悟がどれくらいあるのかは、必ず見ていますね。

地方都市で新規出店していくショッピングモールや駅前の大型商業施設等は、地域に雇用を生むのは、確かです。しかし、都会に本社がある商業施設で、買い物をすればするほど、地域のお金はどんどん都会に流れていってしまいます。結果的に、地域にはお金が残りません。

しかも、商業施設が参入する際に、周辺の商店街やお店を全て閉めたにも関わらず、短期間で収益が出なければ、撤退することも多い。商店街が閉店し、商業施設も撤退して、残された街は抜け殻になってしまうんです。

———そうなんです……。地域が搾取されてしまう仕組みになりがちなんです。

飯石さん:だから「企業のプロモーション戦略の一つとして地域活性事業をする」というのが透けているプロジェクトかどうか、直接的な言い方をすると、「地域を搾取するような仕組」みではなく、地域内の経済循環につながるのか、を見極められるようにしています。

———様々なプロジェクトに参画され、地域の現状を目の当たりにしてきた飯石さんだからこそ、地域に寄り添いつつ、どんな未来をつくっていくかを見据えられているのですね。貴重なお話しをありがとうございました。最後に、これから地域に必要だと思うことを聞かせてください。

飯石さん:人口減少の中で限られたリソースを、地域間でシェアをすることが重要になっていくと考えています。

10年くらい前から「地方創生」という言葉が使われるようになり、地域で活動する人や移住者が増えている一方で、人口が減少し取り残されている地域があるのも事実です。とはいえ全国的に人口が減っているため、全ての地域で移住者を増やすことはできません。

そんな状況の中で、いきつけいなかの取り組みは大きなヒントになります。例えば、移住はしないけれど、春になると必ずイチゴの収穫をしに日高村に来る。そんな人を増やすことで、地域の人手が足りない部分を補うことができます。

前までは移住をしなければ地域に関わることができないと思われていたけど、今はそんなことはありません。これからはもっと人が流動的に移動し、“いきつけいなか”をたくさん持つという生き方が、増えることで、地域に新たな価値が生まれるのではと考えています。

より多くの人が、自分が暮らす地域以外にも目を向け、よりよい生き方を見つけてほしいです。いきつけいなかは、その一歩を踏み出すきっかけをつくることができると思っています。

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