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【グッドデザイン賞受賞特別企画】審査員の山出淳也さんにきく、本質的に社会課題を解決するということ。

「いきつけいなか」が、2023年度のユニット18「地域の取り組み・活動」部門にてグッドデザイン賞を受賞しました。それを記念した特別インタビュー企画「グッドデザイン賞の審査員にきく」。
今回お話しを伺ったのは、2019年からグッドデザイン賞の審査員を務めている山出淳也さん。ご自身も大分県別府市の地域課題解決を手がけています。その活動の経緯や今回の賞の審査の裏側についてお話しをうかがいました。

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山出淳也(やまいで じゅんや)

大分県生まれ。高校生の時にテレビで見た彫刻家のドキュメンタリー番組に感銘を受け、アーティストを目指す。高校卒業直後に開催した展覧会で、資金を集め海外を放浪した後、フランスを拠点に現代アーティストとして活動する。
2003年に出身地の大分に帰国し、2005年にNPO法人BEPPU PROJECTを設立。別府の街を舞台にした現代芸術祭など、1000以上の企画・運営を行う。2022年3月にNPO法人BEPPU PROJECTの代表を退任後、Yamaide Art office株式会社を設立し代表取締役に就任。アートイベントの運営のみにとどまらず、より多様な地域や企業の課題解決に取り組み、プロデュースを行っている。
また2019年から5回に渡りグッドデザイン賞の審査員を務めており、2023年はユニット18「地域の取り組み・活動」部門を担当した。

まったく作品を作ったことないのに
「展覧会をさせてください」と交渉に。

———山出さんは海外でのアーティスト活動期間も長いそうですが、アート作品を制作し発表するようになったきっかけは何ですか?

山出さん:高校生の頃は、趣味で友達とバンドを組んだりするくらいで、アートには全く興味はなかったんです。アートの世界に初めて興味を持ったきっかけは、彫刻家に密着したドキュメンタリー番組でした。

おじさんが滝に打たれて気合いを入れ、石に彫刻をしていく姿を、最初はなんとなく見ていたのですが、気がついたらその番組にどんどん引き込まれていたんです。さらに出来上がった彫刻作品の美しさに衝撃を受けて、「私もアーティストとして生きていきたい!」と、その時に初めて思いました。

そして高校を卒業するタイミングで、作品を作って展覧会をしてみたいと思い立ち、「展覧会をさせてください!」とギャラリーに声をかけたんです。作品を作ったことなんて、一度もないのに(笑)。

なぜかギャラリーの方も承諾してくれたので、ドローイングの作品を制作し、初めての展覧会を開催しました。その当時はちょうどバブル時代だったこともあり、初めての展覧会だったにも関わらず、ほとんどの作品が売れましたね。

そうやって展覧会を開催して集めた資金と、親に「大学の入学金ではなく、旅費をくれ」と交渉をしてもらったお金を手に、海外へ飛び出したんです。

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山出さん:フランス語なんて全く話せないくせに雑誌で見て憧れを抱いていたフランス人の彫刻家へ会いに行ったり、世界中の有名な美大の教授へ話を聞きに行ったり。とにかく「会いたい」と思った人に会うためには、どこへでも行ってましたね。

———そんなふうにいろんな人に会うために世界を飛び回ることのできた原動力はなんだったのでしょうか?

山出さん:美術の専門教育を受けたこともなければ、今までアートに触れたこともない。学歴は高卒。そんな自分がアートの世界で生きていくために「自分に必要な技術は、自分で得て行こう」って思っていたからですかね。あとは、ただただ「この人に会ってみたい」という好奇心が原動力でした。

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熱量じゃない。
ただやると決めて、実行してきただけ。

———世界を飛び回った後、国内外で現代アーティストとして活動をされていました。アーティストとして順調だったにも関わらず、作家活動を中断し、地元の大分に戻ってこられた理由を教えてください。

山出さん:もともとは、日本に帰る気はまったくなくて、25歳の時からずっとパリを拠点に活動をしていました。でも33歳の時に転機が訪れました。たまたまネットニュースに、大分県別府市で町おこししている人の記事が上がってきたのが、目に入ったんです。別府市民自ら街を散策し、地域のことを学び、地域にとって本当に大切なものを残していこうと活動をしている、と紹介しているものでした。

そのニュースを見て、直感で「この活動をしている人に会いたい!」と思って、故郷でもある大分に帰って来たんです。海外へ飛び出した時と同じように、大分でも「会いたい」と思った人には、片っ端から会いに行きました。出会った方たちと話しているうちに、今まで自分が行ってきた“アート”を使って、地元の大分で何かおもしろいことができないか考えるようになったんです。

そして2005年、「別府を舞台にした現代芸術祭を、4年後に開催する」とだけ決めて、NPO法人BEPPU PROJECTを立ち上げました。一緒にやってくれる仲間を集めたり、イベント会場を開拓したり、資金を集めたり、アートに馴染みのない地域の人の理解を得ながら巻き込んでいくために、「アートとは何か」を知ってもらう活動を行ったり。

とにかくガムシャラに動き続け、4年後に「混浴温泉世界」という現代芸術祭を実現することができました。これは国籍の異なるアーティストを招いて別府温泉で滞在・制作した作品を発表するというものです。

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———その芸術祭をスタートさせることに成功した後も、大分を拠点に活動を続けていらっしゃいますが、それはなぜですか?

山出さん:第1回の芸術祭に来てくれた80歳くらいのおばあちゃんに「来年も芸術祭をするの?」と話しかけられたんです。実は、私は芸術祭を1度開催できたらヨーロッパに帰ろうと思っていたので「う〜ん、どうでしょうか?」と返事を濁していました。そしたら、そのおばあちゃんが「とりあえず来年も見に来るから、楽しみにしてる」と言葉を残して、帰っていったんです。

そのおばあちゃんに話しかけられるまで「この芸術祭は“僕が見たい未来”を見るためにやっているものだ」と思っていました。だけど知らぬ間に“僕が見たい未来”は、“多くの人の見たい未来”に変わっていたんです。芸術祭は自分だけのものではなくなっている。そう気がついてから、本気でこの芸術祭を100年継続できるようにと、仕組みを整えていきました。おかげで、この芸術祭は2015年まで3年に1度開催し、2016年からは毎年、グループ展から個展の芸術祭へと形を変えて開催しています。

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山出さん:その後、BEPPU PROJECTは芸術祭を続けながらも、新たに1000以上にわたって、アートと地域・企業の課題を掛け合わせ解決していく取り組みを企画し、運営をしてきました。

BEPPU PROJECTが組織として継続していける体制を整えることができた2022年3月、私自身はBEPPU PROJECTの代表を退任し、新たにYamaide Art office株式会社を別府に設立しました。Yamaide Art office株式会社では、アートイベントに関連するものだけでなく、より多様で複雑な地域や企業の課題解決に取り組んでいます。

あの芸術祭で出会ったおばあちゃんのひとことがきっかけで、私は今も大分に残り、地域で活動を続けているんです。

———アーティスト活動を始めたきっかけや芸術祭の立ち上げなど、お話しを伺っていると山出さんのものすごい熱量を感じます。

山出さん:いや実は、熱量はないんです(笑)。「これからの夢は何ですか?」と聞かれても、特にないし、「休みの日は何をしているんですか?」と聞かれても正直に言うと、なるべく布団から出たくない。根本は人に会わず、1人でゴロゴロ過ごすだけでいい人間なんです。

だけど「ただやると決めた」ってだけ。「高校を卒業したら展覧会をする」とか、「フランスまで彫刻家に会いにいく」とか、「別府で4年後に芸術祭を開催する」とか。そのために必要なことは何かを考えて、ただただ実行してきただけなんです。

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「表面的に美しいかどうか」だけでなく
「本質的な課題を解決するかどうか」
時代とともに変化するグッドデザイン賞の評価基準。

———山出さんはご自身が地域で活動をされながら、グッドデザイン賞の審査員を2019年から5回に渡り務められております。担当されていたユニット18「地域の取り組み・活動」部門はどのような基準で審査をされていますか?

山出さん:グッドデザイン賞ユニット18「地域の取り組み・活動」部門では、主に5つのポイントを基準に議論をして審査をしています。

1つ目は「本質的な社会課題に着目できているか」。
例えば「売れていなかったものを、売れるデザインにしました」というのは、本当に本質的な課題をデザインで解決したと言えるでしょうか?  物にありふれて、ゴミも増え、環境破壊が進むと言われているこの時代に、物が売れないというのは、本質的な課題だろうかと考えていく。
そのように「デザインで解決しようとした課題は何か」そして「その課題は本質的な課題と言えるのか」という視点で、応募作品を見ています。

2つ目は「内容や仕組みにオリジナリティがあるか」。
地域によって課題は違い、するべきアプローチも違う。だから他の地域で行っていて評価されている取り組みを、表面的にコピーしたものでは意味がありません。「内容や仕組みにオリジナリティがあるか」は大きな評価の基準となります。

3つ目は「表現や成果物(アウトプット)が美しいか」。
“美しいか”というのは、ただ見た目がきれいに着飾っていればいいというわけではありません。言いたいことを正確に伝えられているか、余分なものを削ぎ落として洗礼されたデザインかどうかです。どれだけいい取り組みだったとしても、人に伝わらなければ意味がありません。より多くの人に伝えるために「表現や成果物の美しさ」は、重要なポイントなんです。

4つ目は「継続性があり、実績があるか」。
社会課題は、1ヶ月や1年、取り組んだからって解決しないものだと思っています。逆に言うと、1ヶ月や1年で解決するものなら、グッドデザイン賞は必要ありません。そう簡単に解決しない課題に向き合っていて、活動を続けていくために必要な資金がきちんとまわり、5年、10年と継続していくことが可能なデザインになっているのかは、よく議論していますね。

5つ目は「社会全体が良いデザインだと思える共感力があるか」。
簡単に言うと「少数や特定の人ではなく、多くの人を救えるものであるか」です。ここで勘違いをしてほしくないのが、少数や特定の人の課題を解決するデザインも、世の中には必要であるということ。グッドデザイン賞に採択されなかったからといって、悪いデザインだというわけではないんです。
グッドデザイン賞は大きな影響力を持つため、より多くの人に学びとヒントを与えられるものを採択したい。だから「少数の人が対象のデザイン」と、「多数の人が対象となるデザイン」が並ぶと、どうしても「多数の人が対象となるデザイン」が採択されるんです。

以上5つがグッドデザイン賞ユニット18「地域の取り組み・活動」部門で審査をする際の、主な基準です。かつては「表面的に美しいか」が重要視されている時代もありましたが、今は「本質的な課題を解決するかどうか」が重要視されています。時代の変化とともにグッドデザイン賞の評価基準も変わってきているなと思いますね。

「一歩踏み出す」、その行動自体が尊い。
失敗したら、引き返せばいい。

———山出さんの今の活動の原点となる出来事のお話しから、グッドデザイン賞の審査のお話しまで聞かせていただき、ありがとうございました。山出さんの活動そのものが、グッドデザイン賞ユニット18「地域の取り組み・活動」の審査にとても関わりが深いことがわかりました。最後に地域で活動したいと思っている方へのメッセージをお願いします。

山出さん:もともとその地域に住んでいる人と、外から来た人は、文化も、価値観も、言語も違う。今までは、地域で暮らしたいと思った時に、自分にその地域が本当に合っているのかわからなくても、いきなり「移住をするか、しないか」の選択が迫られるような状況でした。

その結果、移住者と地域の人をつなぐ人もおらずトラブルが起こってしまった、というのはよく聞く話です。実際に2011年の東日本大震災をきっかけに、九州へたくさんの方が移住しましたが、その2年後には転出していく方が多くいました。

しかし今は「いきつけいなか」のように、移住以外の方法で気軽に地域と関わることができる時代になっています。だから、少しでも思い立ったなら、今までやったことなかったことをやってみたり、今まで行ったことなかった場所に行ってみたりしたら、いいんじゃないかと思います。その結果、失敗したとしても、立ち止まっていいし、引き返したっていいんです。「ちょっと一歩踏み出してみる」、その行動自体が尊い。

そういう人と地域をつなぐのが「いきつけいなか」であり、その解決方法を我々審査員も評価をしました。地域で活動したい人は、それぞれの“いきつけいなか”を探してみるということから始めるのがいいんじゃないかと思います。

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